殺された。


殺された、
殺されたんだ、僕の大切な人が。

壊されたんだ、ゼロに。
僕は見たんだ。
胸の中で音を立てて崩れたんだ、身体中が怒号したんだ。

殺されたんだ、俺の大切だった人が。
ううん、違う。

大切な理想の世界が、真っ赤に塗り潰されて殺された。

なんて酷いんだろう。
なんて酷いんだろうか。
ずっとずっと大切にしてきた僕の世界。
それしかもう僕にはなくて、それを成すことで僕は僕として立つことが出来ていた。

なんてことだろう。
なんてことをしてくれたんだ。
やっとのことで手に入れようとした世界が。
せっかく形を成してきた理想とした世界が。

べしゃりと歪んで、ガラガラと音を立てて、僕を飲み込んでいく。

殺してやる。
殺してやる、
憎い憎い、お前が憎い。
理想だった。【彼女】は僕の【理想】の世界だった。

否定された。
そんなことは許さない。許さない、許さない!

ならば君を殺してもう一度。
世界が僕に、正しく等しく優しくあるようにゼロからもう一度。

僕から奪う世界を、取り戻す。
そうしてまた贖罪を始める。
僕はいつでも世界に優しくしてきたのに、世界はいつだって僕に答えてくれない。

「俺は間違ってない。間違っているのはお前なんだ、」

唇が歪む。噛み締めて、薄く色づいた唇が微かに震えて。
全部の感情が混ざり合って鬩ぎあって、憎しみしか残らなくなる。

ゆっくりと翳る翡翠色の瞳が開かれる。

これから何をしなきゃいけないのか、
ちゃんと分かってる。
分かってるんだ。


嗚呼、どうかお許しください。
だってそうしないと、俺は救われないだ。
だから、だから。




そしてようやく、僕はこの悲劇の幕を下ろす。






殺戮、或いは終わらない破壊