生徒会室はいつでも賑やかだ。
大抵誰かがいて、笑いが耐えない。そんなところに最近招待されたのは、名誉ブリタニア人である枢木スザクだ。たぶんどこでも煙たがられるであろう彼のことを思い、ルルーシュが提案したことだった。
ルルーシュと彼は友達だと言う。
それを公表しない方がいい、と言ったのはスザクでそうしないと彼らの立場がよくないだろうという自分を省みない台詞だったが、ルルーシュにとってはそんなことで友達として振舞えない代償なら、いらない、と思った。
スザクはスザクだ。
大切な人をつまらないことで失いたくない。
「ありがとう」、と彼は嬉しそうに笑ってくれた。
スザクが生徒会に属してからすぐに歓迎会と評した小さなパーティーが、ルルーシュ兄妹が使っている館のホールで行われた。
何かとお祝いや騒ぐことが好きな者達ばかりで、ルルーシュたちが生徒会に入ったときも何度かこういった形で会食が行われたのを思い出す。
「初体験?」
スザクはぽかんと口を開けてミレイが口走ったことを繰り返す。さっきから質問攻めにはなっていたが、こそこそと耳打ちされた質問には過敏に反応してしまった。
何のですか?と聞く前に、リヴァルが背中から腕を首を回してくる。
「俺もそーいう話はじゃんじゃん聞いちゃうぜー!」
「え?あの、」
生徒会長のミレイは「どうなのどうなの?」と、楽しそうな表情で。
後ろのリヴァルも悪ふざけとばかりに絡んできて。
シャーリーは呆れた様子でそれを見守っている。
こんな感覚は初めてに等しくて、スザクは戸惑う。
友達なんて者も今までいなかったしどう付き合っていけばいいのかもよく知らない。
たった一人の友達だったルルーシュへと、スザクは困った様子で視線を向ける。
それに気づいて、ルルーシュも呆れた息を漏らす。
「くだらない話はやめてくださいよ、会長。スザクの奴、困ってるじゃないですか」
そう言ってやれば、今度はルルーシュに話の筋が向く。
「そういうルルーシュだってどぉーなのよ?」
「お、いいねぇ!実は俺も聞いたことないなぁ、ルルーシュそういう男な話」
「どうでもいいだろ、リヴァル。そんな下世話な話はやめろよ。ナナリーもいるとこで」
「まさかぁ、まだ、とかなの?ルルーシュ」
ニヤニヤとしながらミレイはルルーシュへと聞くと、リヴァルもまたそれに乗ってくる。
この二人が悪ふざけをしたらなかなか厄介者だな、と溜息。
「今は俺の話じゃなくて、スザクへしてくださいよ」
「また僕?」
せっかく解放されたと思ったのに、結局は戻ってきくる質問攻めにスザクは苦笑いした。
その後、夕暮れ時間が迫り歓迎会を解散させ片付けも済ませると、また明日、と告げてミレイたちは館から出て行くのを見送る。
「すごく賑やかな人たちなんだね」
スザクはまだ残っており、自分の歓迎会だったというのに最後まで片付けをするのを手伝っていた。その片付けも終わり、ナナリーの「紅茶を炒れたのでいかがですか?」という申し出を受け入れたところである。
「賑やかなのを通り越してうるさいが、まぁ悪い奴らじゃないことは言えるがな」
扱いに困る連中だ、と疲れた様子でぼやけばスザクが声を立てて笑う。
何よりもスザクがこうして笑っていてくれることに、安堵した。
「僕てっきり、初体験、ておねしょとかそういうことだっと思ってた」
「……あのな、スザク」
それはあまりにも天然すぎるぞ、と脱力する。
この歳になってそんなことを聞きたがる奴など、いないだろう。
するとスザクは少し恥ずかしそうに、
「ルルーシュ、てモテるだろ?」
と、聞かれてルルーシュはまた突然な質問に瞬きをして首を振る。
「別に。お前の方がモテそうだと思うけどな、俺は」
ルックスもよければ運動神経も抜群で、優しい。
まぁ、鈍感という部分が母性本能をくすぐる、というのならそれもプラスしてもいいだろう。
と、勝手にルルーシュはスザクの分析をしてみる。
「そんなことないよ」
スザクは笑ってそういうと、ルルーシュに視線を配らせる。
その色がどこか艶っぽくて彼は少し、ドキリとした。
幼少の頃のスザクしか知らない自分には、今見えるスザクがどれも新鮮な気分だった。
すらりと伸びた身長に変わらないくせ毛に碧の瞳。
そして淑やかな色香がある。女性とはまた違う、柔らかさと言えばいいのか。
「ちょっと、君に好かれる女の子が羨ましかったりして」
「なっ、」
にっこり笑ってルルーシュの顔を覗き込むスザクの言動に、言葉を詰まられた。
上向きになる目線と小さく上がった唇の端。
それに思わず、在らぬ思いを抱いてしまい焦る様子を見てスザクは口に手を当てて笑う。
からかわれたのか、とルルーシュはすぐに唇をへの字に曲げる。
「冗談だよ。そんなに驚かなくてもー、」
「驚いてないっ、この馬鹿スザク!」
ミレイたちの悪い癖がもう移ってしまったのかと、深い息。
一瞬でもどこか期待してしまった自分が情けない。
階段の上からナナリーの声がする。
紅茶の用意が出来たらしい。
早く行こうよ、ルルーシュと弾んだ声で告げて先に階段を上るスザクを見てルルーシュは深呼吸して、落ち着かせる。
もうスザクも自分も子供ではないのだ。
持つ感情だって、一回り違う大きさを孕んでる。
ルルーシュ、とまた呼ばれてからようやく一歩を踏み出す。
「そういう俺だって、同じだ馬鹿スザクめ」
スザクば鈍感だから、きっと誰かに好意を寄せられても自分ではなかなか気づかないんだろう。
彼を独り占めしたい、なんて気持ちは伝わらなくてもいいようなそうでもないような。
スザクが誰かを好く前に、独占してしまいたい。
そんな気持ちの空回り。なんという名前の感情なのかも、はっきりは知らない。
清く正しく美しく?