エジプト北部の地中海に面する港町、エルアラメイン。
この海域では随分と前からブリタニアとEU軍との衝突が絶えない激戦が続いている。ブリタニア軍がEU加盟国の中でも強国であるドイツ、フランス、イギリスを破るためには必要となるポイントだ。
中東アジアであるレバノンを経由して、軍備の供給を行いEU攻略を行っていたが小さな国の港ではもう限界が来ている。それにエルアラメインを抑えることが出来れば地中海を制圧するきっかけにもなり、そこからイタリアを切り口としヨーロッパ本土への足がかりとなる。
まずはこの防衛線を突破することが、ブリタニア軍の勝敗を左右する。
一年と少し前ではコーネリアがエルアラメイン戦線に向っていたが、彼女は補給に立ち寄ったエリア11でそのまま総督を引き受けてしまいEU戦線は両者一歩も譲らないままの戦争へと発展した。
そのことを危惧していたのはシュナイゼルであり、とうとう彼がその戦地へと直接赴くことが決まったのは半年ほど前のことだ。
EU海軍と連合軍が誇るナイトメアフレーム、パンツァーフンメルに関しての制圧計画が彼の元で始動しそれに伴って強化された部隊が派遣させた。
海上線ではEUの方が上手だ。それをカバーするために試作として作られたのがフロートユニットだ。だがそれをサザーランドに装備させるには多大な負荷がかかり、通常では機体もパイロットも持たないだろう。
両者共もにらみ合いも激化し、どちらかが負けるまで続けられるであろう争いに投入されたのが、ブリタニアが誇る世界にたった12人の最強の騎士である枢木スザクが駆るランスロットだ。
機体とフロートユニットの相性は抜群で、パイロットもそれに堪えうる身体能力をしている。
ブリタニアの切り札であるジョーカーだ。
しかしラウンズを指揮することが出来るのは皇帝のみで、例え示唆したとしても皇帝が否と言えばそれまでの話だ。それを受託し、ナイトオブセブンの派遣を許可したのは気まぐれというわけではないだろう。
そこで示すことが出来る力を彼が持ち合わせ、EUを畏怖させることが出来るという核心があったからだ。
しかしその期間はあまりにも短い。
その間に攻略の糸口を見つけよ、という難題だ。
久しぶりに見せた元部下の表情は優れない。というより、温かみに欠けた人形のような色だ。
大して顔を見たわけではないが、あの頃とはがらりと雰囲気すらも変わっている。エリア11でのブラックリベリオン、ユーフェミアの死が彼を変えて頑なに閉ざしてしまった。
それでも今の彼が行っていることは、彼自身の成すべき道へのプロローグにしかないのだろう。
認められて内から変えたい、と正々堂々と訴える姿に偽りは無い。
喜ぶべき姿なのか、痛々しくて見ていることに悲しさを覚えるのか。
シュナイゼルにはどちらにも取れた。
海岸に駐屯している連合軍の指揮を乱すのが今回のスザクの目的で、それが完了すればまた本国へとトンボ帰りだ。
シュナイゼルが本国に帰れば次の任務はなんだね、と聞けばスザクは眉尻を上げる。
「自分の次の任務はエリア11です」と、尖る口調で告げられた。
だからこのEU戦線での活躍は微弱に留まり、彼の本当の目的地というものは祖国というわけだ。

「自分がここにいる間、如何に使っていただいても構いません。皇帝陛下からはそうせよ、と承ってきました。ただ、自分はナイトオブラウンズです、通常の指揮系統には所属しておりません故、閣下の指揮下の元で指示を仰がず単独で鎮圧する場合もあることをご了承ください」

真っ青なマントは彼の気持ちを現しているかのように、澄んでいる。
白の衣装も彼の純粋で一途すぎる覚悟を纏っている。
スザクの言葉に、「構わない」と頷く。
そして無理はしないように、と付け加えた。

「君が無茶するのは相変わらずなようだからね」

”ブリタニアの白き死神”と恐れられているランスロット。
そこまで呼ばれるほど実績を上げて、畏怖されてまでもなおその場所に固執する彼が無茶をしていないわけがない。生き急ぎながらも居場所を求めて彷徨う憐れな魂に同情にも似たものを映す。
時に彼が目指している場所なんて、ないのかもしれない。あったとしても、それは夢物語でしか過ぎないものなのかもしれない。
そんなことを話したところで彼はやめないのだろう。
最初から自らに科した運命という枷を外すことなく、遵守して貫く。

「自分は、自分がすべきことを一つずつこなしていくだけです。それだけしか、出来ませんから」

その愛らしいほどの色であるエメラルドの瞳が細く、滲んで薄らと悲しく、微笑んだ。
それしか出来なくなってしまったことへの後悔なんてなくて、突き進んでいくしか出来ないことを分かりながらもいまだに冷めない行き場のない熱の捌け口を探している。
覚悟を知るものだから、手を伸ばしたくなる。
けれど、もうそれは叶わなけば必要はない。
あとは彼が行く道を、見送るだけ。
それが後に、自らが得たい道へと形を繋げるだろう。スザクが知る必要もない、シュナイゼルの内。

「君の活躍を期待しているよ、私も、皇帝陛下も」

「必ずご期待に添えてみせます」

そうして始まる戦いが、全てへの始まりとなる。
終わりを告げた物語にペンを走らす者が現れて、終わりが始まるとなる。
スザクは深々と頭を下げると、踵を返して執務室を出た。青いマントは微かに揺れて、彼の全てを覆い隠す。
誰にも触れさせないように、守るようにー。




スザクの足は真っ直ぐに白亜の愛機に向って歩き出す。
見上げた視線は晴れ渡る空を仰いで、眩しそうに手をかざした。


さぁ、行こうランスロット。













                             


モノクロの微笑み
          変わらない痛み