中華連邦で行われる天子と第一皇子、オデュッセウスの婚姻のためエリア11に駐屯していたラウンズの三人が派遣されることとなった。
ナイト・オブ・セブンであるスザクはエリア11総督の補佐官ではあったが、ブリタニア皇帝からの勅命であればラウンズは動かなければならない。そのための他の機関とは異なった、皇帝自らが動かすことが出来る最強騎士団なのだ。数日間であれば自分たちが離れても今のエリア11なら構わないだろう。
黒の騎士団が排出されたエリア11の様子はまだ落ち着きはないものの、自分たちが出張ることもなくなった。あとはもう一度、総督であるナナリー皇女殿下が掲げる行政特区実現のためにこの国で勝ち得なければならない信頼がある。
天子との婚姻はシュナイゼルの案であり、そうすることによってブリタニアは自動的に中華連邦という国を属化し、そこから完全なる帰属へとする政略だ。何せ中華連邦とはEUとは違い、国はばらばらな政策をとっているため、絆し易い。
シュナイゼルもEUから帰国しており、中華連邦へと赴いていた。
そのために急遽、エリア11にいるラウンズが護衛の任に入ったというわけだ。最初、婚礼の祝賀が行われる迎賓館に呼ばれてはいなかったラウンズだったが、大宦官の計らいによって招待された。その場での警備はほぼ中華連邦側に任されており、客人としての丁寧な扱いはブリタニアへの媚であり、大国に対する自国の威厳見せつけでもある。
シュナイゼル殿下もオデュッセウス殿下もそれぞれの親衛隊がいるため、ラウンズが三人も護衛に着くのは少し厳戒すぎないかと言っていたがそれもそうではなくなった。
呼ばれもしない客人が婚前の祝賀会に登場したからだ。
黒の騎士団の頭領である仮面の男、ゼロ。
一時は緊迫した状況になったが一興であったシュナイゼルとゼロのチェスで起こった件以外、何も問題は起こらなかった。
問題は明日の式だ。ゼロが現れたおかげで警備体制が見直され両国共に兵を増やしスザクたちも客人気分などもう味わうことなんて出来るわけがなかった。
ゼロの目的はやはりシュナイゼル殿下なのかと、スザクは祝賀会が終わったあとでも自分が延々と考えられる彼の行動を解こうとした。
(明日の式には出ないように殿下は進言したが、果たしてそれをヤツが守るだろうか)
腕を組み、ソファに深く腰掛けて眉間に皺を寄せてひたすら悩んでいるスザクにジノは盛大な溜息を吐く。

「いつまで怖い顔してるんだい、スザク」

いい加減リラックスしたらどうだ、とバスローブを着たジノが言う。
ラウンズに用意された部屋は二つで、一つは女性であるアーニャが使いジノとスザクは同室で一夜を過ごすことになる。しかしその予定だった三人も交代制で両殿下の護衛に就くため、睡眠は一緒には取れない。
しかしまるでこのままボトルワインでも開けて優雅な夜を過ごしそうな勢いのジノに、スザクは唇をへの字に曲げる。

「君はこのまま事が無事終わると思っているのか?」

そう苦言してみれば、ジノはスザクの横に座ってバスローブから覗くその長い足を組む。

「それが一番だろうけど、無理なら出るとこ出ましょ、て話でいいじゃないか。今からそんな難しく考えたって、なるようにしかならない」

「けど、」

「だからラウンズである私たちがいるんじゃないか」

なるようにしかならないのなら、それを変えてみせるのが我々の仕事だとジノは鼻を鳴らして微笑する。

「だから大丈夫さ。スザクが悶々としたって、きっとそれは報われない悩みだ」

ぽん、と肩を回して軽く叩くスキンシップ。ジノからはシャワー後の爽やかな香りに鼻腔がくすぐったくなった。確かに彼の言うとおり、このまま悩んで悩んで睡眠もろくにとれない、となったら元も子もない。

「で、この任が終わったら半日はオフだろ?スザク、一緒に上海を満喫しようじゃないか!」

肩を抱くだけではなく、スザクの身体をすっぽりその両腕で抱き締めて甘え寄り掛かる。大きな子供に遊んでくれ、と強請られるスザクは呆れた顔で、ジノ、と制する。

「まずは仕事のことを考えてくれないか、ジノ。ここでは君が陣頭指揮を取っているんだから」

エリア11ではスザクが主に指揮を取っているが、中華連邦ではシュナイゼル殿下の指揮下に入りその下でジノが一番の纏め役を担っていた。

「そうさ、だからもう予定がそう立ててあるんだ」

「……そう。聞いた僕が馬鹿だったよ」

ひやりとした冷たい視線を送り、纏わりつく厚苦しい腕を解いて立ち上がるとスザクはラウンズの衣装を脱いでベッドへと投げる。黒のインナーとズボンだけになるとスザクの細い体躯がより線を出して、いつもは隠れてしまっている小さくて引き締まった尻が見ることが出来、ジノはそのしなやかな後姿を満足そうに眺める。
解いたカナリア色の三つ編みは軽いウェーブになって、ジノの肩へと垂れている。

「なぁスザク、私たちも本国に帰ったら結婚式挙げようか」

その唐突すぎる台詞にスザクのバスムールへの足が止まって、ものすごく怪訝そうな顔が振り返ってきた。

「はあ?」

あからさまに不快そうな返事をしたが、ジノはそんなスザクの疑問など物ともせずに話を続ける。その顔はとても活き活きしており、将来の夢を瞳を輝かせて語るようだ。

「もう私たちってそういう段階を踏んでもいいと思う。私がスザクを愛してる、て気持ちには嘘偽りはないのだから次、本国に帰ったときには籍を入れよう!それが一番だ!」

どこからそんな憧れに発展するのかと、スザクはジノに痛くてかわいそうなものを見るような視線を向ける。
いやそんな視線を送るだけではなく、殴って彼の目を覚ましてあげた方がてっとり早いだろうか。

「ジノ、君は結婚ってどういうものかわかってないだろ」

なんだか頭が痛くなってきた、とスザクの眉間に皺が増える。

「分からなかったそんなことは言わないさマイハニー!」

「誰が君のマイハニーだよ!」

ぞわっ、と毛穴が開いてスザクは叫ぶ。しかしジノはそんなスザクの抵抗などやはり気にすることなく、満面の笑みでその自分とスザクの結婚式とやらを妄想する。
シャンパンカラーのウェディングドレスはきっと華奢なスザクでも似合うだろう。ふわふわのココア色の髪には小さなティアラを付けてベールで顔を薄く覆われたスザクはとても可愛いらしい花嫁になるはずだ。世界で三番目に強い騎士と七番目に強い騎士が結婚したらそれほど最強の二人はいない!と、豪語されても返答に困る。

「どこかは忘れたけど、帝都のどこかの州にあるんだよ。男同士でも結婚できる制度があるところ。そこなら大丈夫だから安心してこの愛をどこまでも育もう!」

スーザク!、と周りに花とハートマークを散らせながらソファから飛び出して抱きついてくるジノを、スザクは力を込めて引き剥がす。ふざけているのか本気なのか、聞くのが怖くて顔色を青くする。

「遠慮しておくよ。これ以上、君との愛を育てる気はないから。これで限界だから」

「えっー、酷いスザク」

こんなにも愛しているのにスザクときたら素っ気無くて、ジノは眉尻を下げて口を尖らせる。そんな風に駄々を捏ねられても、とスザクの溜息。

「けど考えておいて損はないと思うぜ?なぁ、だからスザク、私との結婚考えておいてくれよ」

きっと明日の結婚式見たら気が変わるかもしれないだろ、と言われてもスザクにはどう返事を返したらよいものなのか分からず、

「そうだったらいいね」

とだけ零すとジノの笑顔が眩しいほどの輝きを持つ。
きっとヴァインベルグ家がナイト・オブ・スリーにまでなった大切で自慢の息子が男の花嫁が欲しいんです、と聞いたら顔面蒼白、本家も分家とも絶縁、なんてことに成りかねないというのに。
もしもジノと結婚したら苗字は枢木ではなく、ヴァインベルグになるんだろうか。そうすると、スザク・ヴァインベルグ?
なんとも語呂が悪い名前になってしまう。
じゃあジノが婿入りする場合になると、枢木ジノ。
なんだかこっちの方が納得できるのは国の違いのせいか。

「ああ、何考えてるんだ僕はっ」

思わず過ぎってしまったことに小声でないから、ないない。と、頭を振って消すとジノが陽気にどうしたんだい?と頬を擦れ寄せてくる。

「なんでもないよ。君のこと考えてただけだ!」

そう恥ずかしそうに投げやりで言葉を返すと、スザクは早足でバスルームに飛び込んで思い切りドアを閉める。こんな甘えたで強い年下の旦那なんて、僕には勿体無いよね。
スザクは耳まで真っ赤にしてジノの馬鹿、と本人のいない場所で呟き、服を着たままなのにシャワーのコルクを捻ってしまったことに一人笑ってしまった。









                               

僕たち、結婚します!