コチコチと時計の針が鼓動する音が聞こえる。
一定のリズムを刻んで、ずっとコチコチ、コチコチ、と耳の奥を麻痺させる。

夢の中の僕は、真っ白い空間に一人。
そして目の前には大きな柱時計。
大きく振り子が揺れて、針がちょうど真上に到着すると響く低音。
僕が振り向くとそこには亡き父がいた。
幼いとき、父が大きく見えた。それは今でも変わらない。威圧する瞳に射抜かれて、身体が竦んだ。
憧れもしたけど、怖い父だった。父が笑っている顔を、知らない気がする。鷹のように鋭い目は、いつでも僕を萎縮させる。「強くなれ」と口癖のように言う。
強さ、てなんだろう。
父さんは、それを知っていたんだろうか。
呼吸が苦しい。喉の奥が熱くなって、肌が汗ばむ。
なんで何も言わないでこっちを見ているの、何か言ってくれ父さん。
僕は、俺は、俺は。
誰もがじっと、俺を見て静かに責める、詰る、殺す。
俺から全てが、離れていく。


何がいけなかったの?
―違う。
悪いのは本当にぼく?
―違う。
じゃああのまま日本は崩壊すればよかったの?
―違う、


この死にたがりや。


父の唇が薄く笑って、そう告げた。
救いが欲しいのか?
過ちだと、認めるのか?
父を殺したことを、間違いだと。

(違う違う、違う!)

「何も、違わないだろう?」

ふいに混じった優しさなんて感じさせない、怜悧な声。
もう一度柱時計へと視線を巡れば彼がいた。
にやりと口元に笑みを浮かべて佇んでいる。

「お前は救われたいんだよ、醜く足掻いて、許しを乞う罪人」

突き刺す友の言葉に返す言葉を持たない。
冷ややかな目が、痛い。
君だけには知られたくなかった。軽蔑して欲しくなかった。哀れんで欲しくなかった。

そしてゆっくりと、彼の唇が言葉を綴る。

う、そ、つ、き。、と。







「いやだッ、待ってルルーシュ!」



自分の叫び声と飛び起きて、堅いベッドがその衝動に揺れる。
手を伸ばした先には薄闇しかなくてルルーシュの姿はなく父の姿も、なにもなかった。急激に酸素を吸ったせいか、背中を丸めて噎せる。
気持ち悪いほどに全身が湿っている気がした。
今見ていたものが一体なんだったのか理解すると目蓋を伏せて長い息を吐く。
夢を見ていた。
初めて見る夢だった。
父の夢を見ることはあっても、ルルーシュが居たことはない。
ルルーシュまでもが、自分を蔑む。
嫌だ。そんなのは。

「……、」

知ってもなお、傍にいてくれるだろうか。
いつもみたいに笑って、おはよう、と明日の朝声を掛ければ彼は笑って返してくれるだろうか。
失うものは何もなかったんだ。
もう僕に残されたものなんて、小さなこの命だけで。君の言うことも、父の言うことも、正しい。
僕は醜くて、この大罪から救われたくて、生きている。それぐらいにしかならない命だ。
ぎゅ、と膝を抱えて顔を埋める。
失うものは、何もなかったんだ。
なのにルルーシュを失うのかと思うと、苦しくて苦しくてどうすれば彼は僕を好きでいてくれるだろうか、と必死に思う。

ルルーシュ、君は僕を好きでいてくれる?

嘘でもいいから好きだと言って。
本当のことなんて、いらないから。
嘘で塗り固めた僕を、どうか嫌いにならないでルルーシュ。

色褪せたナイトメア