それはいつもどおりの毎日で、その日もスザクにとっては何も変わらない朝だった。
よく人に自分は天然だ、鈍感だ、と言われたがそんな自覚はない。自覚がないからそう言われてしまうわけではあるが。これでも気遣いは出来ている方だと思うし仕事だって怠慢などなく、きびきびとこなしている。これも全ては自分がナイト・オブ・ワンになるためだ、とスザクは毎日の鍛錬を欠かさない。
日課にしているトレーニングを終えると、偶然か待ち伏せていたのかジノが庭先の柱にもれたて立っていた。

「おはよう、ジノ。君もトレーニング?」

「おはよう、スザク。いいや、私はもう終わったんだ」

「早いね」

首に巻いたタオルで額の汗を拭きながら、返事をする。しかしジノの様子がいつもと違う気がしてスザクは顔を上げた。終わったのならここで待っていることだって必要ないし偶然通りかかったというのなら待っていることもないだろう。
どうせ朝のラウンジで顔を合わせるのだから。

「どうかした?」

スザクは思わず聞いてしまった。だが、それに対してジノは「何が」と首を傾げると首下に垂れた金色の三つ編みが揺れる。

「僕に何か話したことがあったから待ってたんじゃないのか?」

ズバリそう口にしてみれば、ジノの目の下がヒクッと微動した。が、スザクはそんなことには気がつかないまま、ジノをじっと濃い緑色の瞳で見つめていた。

「私はただスザクが偶然見えたから待っていただけで特に何もないよ。スザクを待っているのに理由がなきゃだめか?」

ジノの逞しくて長い腕が伸びてきて、スザクの肩を抱く。
スザクは「汗臭いよ」と、太い茶色の眉を下げて気にしたがジノはまったく気にすることなく、笑った。ようやくそれがいつもと変わらない彼で、スザクは気のせいかと息を吐いた。

「スザク、あのさ」

だがやっぱりどこか落ち着かない様子で視線を彷徨わせてスザクを見る。なんだい、と問えばジノは唸りながら迷う息を零す。一体なんなんだとスザクはそのジノを眺めていれば、ぱっと手が離れる。

「来週なんだけどさ、27日を空けておいて欲しいんだ」

「27日を?何かあるの?」

と、スザクが不思議そうに首を傾げればジノが悲愴な顔つきでスザクを見つめ嘆息して項垂れた。やっぱり、と付け加えて。
スザクが知るわけがないのだ。
だって自分から言ったこともないし、きっと誰からもそんなことを聞いたり教えられたりしていないのだろうから。
自分とスザクが例え性別の枠を超えた恋人という関係であったとしても、この少年は記念日というものに無頓着な性格だろうと、ジノはジノなりに推測する。
だから分からなくて当然であった。
ジノにとっては今回ほど大切でこんなにも一緒に過ごして欲しい、という人は初めてなのだがそれを自分から伝えてもいいものなのか迷う。
相手に喜んでもらいたい、と思ってスザクの誕生日にはサプライズを用意してみた。彼は自分の誕生日すらあの時は忘れていたのだ。なら他人の誕生日なんてこれっぽっちも興味のないことかもしれない。
おかしなぐらい今、ネガティブな自分がいた。
そして自分の誕生日だから祝ってほしい、なんてことかっこ悪くて言えるだろうかという恥じらい。ジノの場合、誕生日に祝賀パーティーがあるのは当たり前で誰からも祝われるのも慣れっこだ。当然のように誕生日パーティーがあるからきてくれと誘うことだって。しかし何故かスザクに限ってそういう見栄というかプライドが働いてしまう。

「ジノ?」

自分の両肩をしっかり掴んだまま唸り続けているジノに対し心配になってスザクが声を掛けると、はっと我に返ると「やっぱりなんでもない!」と慌てた。

来る11月27日はジノ・ヴァインベルグの生誕日である。

それにより今年もジノの実家の方でパーティーが行われることになっており、それにジノはスザクも誘いたいのだ。だがジノにとってそんなパーティーにはうんざりでスザクと二人っきりで過ごしたいという願望の方が強い。
ならばスザクを誘ってしまえばいいと思ったのだが、思うように口から言葉が出ないのは何故か。

「あ、ジノごめん」

悶々と頭の中で画策していれば、スザクが申し訳無さそうに謝った。彼の手には携帯を持っており、開いた画面は自分のスケジュールが詰まったカレンダー。それの27日の予定を見れば残念なことにオフではない。
タイミングが悪いことに、27日からスザクだけが帝都を離れた任務に就かなければならなかった。
任務とあればどうお願いをしたって空けれるものではない。ベアトリスに言ったとしても、理由が理由であるために秒殺で却下されるだろう。

「ごめんね、ジノ。何があるか知らないけど、任務だから」

「そうだよな。私だってもしそうだったら仕方ないと諦める」

スザクには何のことだが分からないがジノがすごく残念そうで凹んでいることに、とても心苦しくなってくる。「埋め合わせはするから」と、告げてその場をスザクは小走りで去る。
その姿を見送り残されたジノは消沈の溜息を地面へと零して、自分の不甲斐なさに誰かに殴って欲しいと思ってしまった。









「アーニャ、明日の27日って何の日か知ってる?」

午後の緩いティータイムな談話室でスザクは向かいのソファに座っている少女に問い掛けた。丁度今、この部屋にジノも居なければ他のラウンズの姿もない。
たまたまスザクがここにやってこればアーニャが一人で携帯を弄っていたところだ。「午後からの予定は無いの?」と聞けば、「ない」と簡潔に答えられた。スザクも今日はもう部屋に帰って報告書をまとめて提出しに行くだけだ。
しかしそれだけがスザクにとっては一番厄介な仕事である。
そんな折に先日のジノのことを思い出して彼女なら何か知っているかもしれない、と思い立ち聞いてみた。するとアーニャは携帯を弄るのをやめて、スザクの顔をじっと見つめてきた。
何か付いてるのかな、と思ってスザクは口元に手を当ててみたが何も付いていない。

「あの、アーニャ?」

「スザク、知らないの?」

アーニャの目が何度も瞬きをして、どうして、と言っている。

「知らないよ。この前、ジノに27日空けておいてくれって言われたんだけどどうしてか言ってくれなくて……それに僕、その日から任務に就いちゃうから結局は無理だったんだけど」

と、自分のココア色の髪を撫で付けながら苦笑する。するとますますアーニャの顔が驚きに変わっていき、口を結んでスザクを凝視した。その無言の威圧にスザクは「えーと」と、視線を天井へと向ける。

「……スザクが知らないのは当然。だって誰も教えてない、ジノもスザクに言ってないから悪いのはジノ」

大きな図体をしていて誰にだって好かれて人当たりのいいジノではあるが、どうやらスザクに対しては特別らしい。そういう性格も彼の前では変わらないのだろうが、へんなところで押しが弱かったり強引だったりするのがスザクの前でのジノだ。
甘えたいのかかっこつけたいのはどっちなの、とアーニャはジノの揺れているであろう彼女にとってはどうでもいい気持ちに一つ溜息を吐く。
だが知らなかったらスザクは落ち込むんだろう。どうして言ってくれなかったんだ、て怒りもするだろうし。そうなる二人を見るのも一興ではあるがスザクが自分のせいではないのに凹む姿は見ていて可哀相だからアーニャは教えることにした。
結果的にそうした方がジノにとってもスザクにとっても、嬉しいはずだから。

「スザクに教えてあげる、11月27日はー」












11月27日、午後22時。
今夜は泊まっていきなさい、という母の言葉があったがジノはブリタニア宮殿に戻ります、と言って帰ってきたのがこんな時間だった。
さすがにこの時間ともなれば出歩いているのは憲兵たちぐらいで談話室には誰一人いなかった。
結局当日になっても、自分の誕生日だということが伝えられなかった。伝えたところでスザクは任務だし、言ってしまったら逆に気を使わせてしまうかもしれない。スザクのことだから。
本当はこっそりスザクが自分の誕生日を知っていてくれて祝いに来てくれたら、なんてロマンチックなことを妄想してみるがそれはスザのことだからたぶん、ない。
ならぱやっぱり誕生日なんだ、パーティーに来て欲しいといえばストレートでよかったのかもしれない、とも今更思う。
家に帰って豪華な食事が並び、親族や招かれた貴族たちが私に向かっておめでとう、と告げるがそんなものジノにとっては心に留まるものなんてなかった。
ただ久しぶりに顔を合わせてた母が老けたなと思うことと、兄たちの子供が大きくなったこと、父は相変わらず荘厳で無口な人だと思ったことぐらいだ。そんな母と父からは結婚の話もされて誕生日だったというのに楽しい時間が過ごせたとは思えない窮屈な時間だった。
自分の任務だったらよかったのにとさえ思ってしまう。
(けどスザクはそういう場所、嫌いだよなあ……祝勝会は出るけど個人的な貴族のパーティーとかまったく興味なさそうだし誘ったところで断られてたかな)
やっぱり今の自分はネガティブだ。
くるくると三つ編みを弄りながら窓辺に座り、丸い月を見上げる。そこから見える月下には、庭に咲く花たちと水路が流れる静かな音がある。そんな綺麗な月夜にデートをしている男女が現れてジノはブランケットを被ってベッドに潜り込んだ。
(別に羨ましくなんかない)
なんて子供みたいに駄々を捏ねて、唇を尖らせる。この歳になって誕生日を家で盛大に祝ってくれることへの鬱陶しさと、大切に祝って欲しいと思う焦燥感。
今日なんて日こなければよかったのに、と捻くれていればドアベルが鳴る音がした。
こんな時間に訪ねてくるなんて誰だ、と思って疲れた体を起こせば扉の向こうから聞こえた声に急に体が熱くなった。

「ジノ、いる?僕だ、スザクだけど」

ジノは飛び起きると扉まで大股で駆けると勢いよくドアを開ける。
あまりにも勢いがよくドアが開いたことにスザクは驚いて目を丸めていた。

「スザク、なんだいこんな時間にやってくるなんて。それにお前、任務だって……」

と、平静を装っているが声が多少上ずってしまった。

「うん、本当は明後日までの予定だったんだけど、アーニャが変わってくれたんだ。だから僕はさっき帰ってきたところで、任務交代のことをベアトリス女史に叱られていたところだよ」

11月の後半はもうブリタニアもすっかり寒くなってきており、スザクが言葉を紡ぐと白い息がふわりと吐き出されて、また冷たい空気の中へ溶け込んでいった。
スザクの頬は寒さでほんの少し赤くなっていて、最初はジノを見上げていた視線が足元へと落ちる。

「任務交代ってスザクにしては珍しいな、滅多とそんなことしないのに」

任された仕事は必ず手柄にして帰ってくるのに、それを他人に任せてしまうとはあまりスザクらしくないとジノは怪訝する。だがスザクはそれに対して小さく頷くと、

「どうしても、済ませたい用事があったんだ」

と、声を詰まらせながら笑った。
その言葉にジノは思わず、心臓が高鳴った。自意識過剰でもいい、スザクが済ませたい用意というのが自分に対しての言葉として受け取り、まさかの期待に緊張する。
スザクは短い睫毛を震わせ碧の視線をジノに向けた。その深くて艶のある色にジノは恋をする。
だがジノが期待していた言葉はスザクから告げられることはなく、反対にその見つめられた瞳は怒っているかのように眉を釣り上げて睨んできた。

「ひどいじゃないか、ジノっ」

突然そう叱咤の声が飛び、ジノはきょとんと目を点として気持ちが一瞬にして冷えていくのを感じた。

「いつもの君なら強引にでも引っ張っていったはずなのに、どうしてこう大切な時はなんでそうなんだ」

大きく息を吸って吐き出す言葉は不満に震え苛立っている。
どん、とジノ胸を拳で叩く。

「ス、スザク?」

「君らしくない。君は、いつでも僕に対して強気でいてくれればいいのに。そうじゃないと、こっちの調子が狂うよ」

怒っているのに今にも泣き出しそうに瞳の中を潤ませて見上げてくるスザクの気持ちに、ジノはようやく彼が何を言っているのかを理解する。
ああ、もしかして今日が何の日かわかったのか、スザクは。
きっとアーニャ辺りがしゃべったのだろう。だからスザクは律儀な奴だから自分だけが知らないことに腹を立ててこうして息を切らしてまでここにやってきてくれたのだ。

「スザクは、私を怒りに急いで帰ってきたの?」

思わず可愛い不満と怒り方にジノは口元が緩んでしまう。

「そうだよ、君が今日27日が誕生日だってことを僕に黙ったままにしておくから、僕はとても恥を掻いた」

誰に、というわけではないがアーニャに27日がジノの誕生日だと聞いて知らなかったことがとても恥ずかしかった。と、同時にどうして言ってくれなかったんだろうというジノへ向ける小さな苛立ち。
しかもそれを知ったのが前日だ。
何を用意することも出来ないし、ジノはジノで家での祝賀パーティーに出かけてしまうし自分はそんな大事な日から任務とあって、ショックの他なにものでもなかった。

「確かに僕は君の誕生日なんて知らなかった。けど、言ってくれれば……ちゃんと、」

そこで言葉を悔しさに詰まらせる。
今年の夏、自分の誕生日を祝ってくれたことがとても嬉しかったからその気持ちを返せる日を待っていたのに、それをジノに避けられたのかと思うと切なくなってしまう。

「ジノのばか、」

誕生日にしては相応しくない言葉を告げて、スザクは唇を結んだ。
ジノはそれに胸がまた熱くなってきて溜まらず華奢なスザクの身体を腕の中へ力いっぱい抱き締めた。痛い、と言われても離さずにぎゅっ、と。

「スザクごめん。お前が言う通り、私はばかだ」

大切な人がこんなにも想ってくれているのにその気持ちを台無しにしてしまう自分は大ばかだ。
けどスザクも素直じゃないな、とくすぐられる気持ち。
ジノの胸に顔を埋めながらスザクは目蓋を重たく下ろしていく。温かくて、広いこの腕が自分を迎えてくれるここはとても安心出来た。

「……ジノ、誕生日おめでとう」

27日があと1時間弱で終わってしまうその前にこの台詞をやっと伝えることが出来て、スザクは全身から無駄な力が抜ける。
君に出会えてよかった、と囁いてジノ背中に手を回した。

「スザク〜!」

たった一人に一言、おめでとうと言われることがこれほど嬉しいと思ったのは久しぶりだ。
昔は母たちから祝われることがとても嬉しくて幸せだったな、とふいに思い出す。けれど、スザクが一番だった。どんな思い出よりも、スザクの言葉が。
ちゅっ、とスザクの冷たくなった頬にキスをしてもう一度正面から抱き締める。

「スザク、すごく身体が冷えてる。私の部屋であったまってく?」

頬をすり寄せて冷たくなっていた耳朶を甘く食めば、ほんのりと赤く熱を持ってくる恥じらいが可愛らしい。すっ、とジノの手のひらが腰周りに下りてきて抱き寄せられるとスザクは困ったように眉根を寄せた。

「ジノ、僕はそういう意味で来たんじゃなくて……」

「でもまだ私の誕生日だ。スザクは私にプレゼントはくれなのか?」

意図を持って触れてくるジノにスザクは赤面し、引き剥がそうとしてもくっ付いてくるから離れられない。さっきまではあんなに情けない顔して謝っていたのに、ころっと表情を変えて襲ってくるジノの強引さにスザクはすっかりペースを乱されてしまう。

「スーザク?」

額を合わせて身近に覗き込むブルーの瞳に自分が身も心も沈んで行くような感覚に、心臓が大きく鳴る。

「君には本当に……敵わないよ」

肩口で揺れているカナリア色の三つ編みを引き掴んで、屈ませるとスザクは背を伸ばしてジノの白い頬に自分の唇を触れさせた。

「僕がプレゼントなんて、そんな恥ずかしいことは言えないけどね」

そう言って恥ずかしそうにはにかんだスザクをジノは満面の笑みで抱く。

「スザクがいい。私はもうスザク以外何もいらないよ、どれだけ豪華なものをプレゼントされてもスザクには敵わない。スザク以外、私は何もいらないよ」

抱き上げたスザクをそのまま寝室へと運びながらそう口説けば、スザクは耳の先まで真っ赤にして前髪で顔を隠そうと必死で俯くがジノからはその愛らしい顔も目も丸見えだ。

「ああもう、そういう台詞はやめてくれ。僕が恥ずかしくなる」

君は慣れっこかもしれないが庶民である僕にはそんな甘くてキザな台詞が似合わないよ、とスザクはベッド下ろされてから洩らした。
ジノの蒼い瞳の輝きが二つ降ってきて、息を飲む。
水面に映る星のようにきらきにとしていて綺麗だった。
広い手が前髪を掻き上げて額を擦り、頬のラインを辿り顎まで撫でると黒のインナーのファスナーに指を引っ掛ける。ジジッ、ト金属が擦れて開く音が鈍く響く。

「恥ずかしがるスザクは可愛いからもっと恥ずかしくしてあげたくなるな」

くすくすと声を立てて笑うと、ジノは肌蹴させた胸へと手のひらを当てた。ゆっくりと呼吸する薄い胸に色づく二つの突起を掠めながら撫でると、スザクが声を詰まらせて眉を下げた。

「んっ……」

指の腹で柔らかい突起を摘んで転がせば、次第に肉の芯を宿してきて硬くなっていくのがわかる。そうされると、その小さな性感からひりひりとした痛み似た痺れが脳天に伝わり身体が粟立つ。

「甘いケーキなんていらない。スザクが食べたいなぁ」

ぱくりと尖った肉を口腔に含んで、生温かくてざらついた舌で突いた。するとスザクが殺していた息を悲鳴に変えて鳴き始める。サーモンピンクの乳首を舌と指先で弄り続けていればスザクの身体がもどかしそうにシーツに皺を作り、下肢に集まっていく熱に気付いて頬に朱色を走らせる。

「あっ、」

軽めに歯で噛んで唾液を塗り付けて吸い付くことを繰り返す。

「あっ、んっ……ん」

甘く麻痺していく身体の火照りにスザクは手や足の自由が効かなくなってしまったような感覚に思考は真っ白になっていく。口から零れる音は言葉ではなく、喘ぎだ。胸を執拗に弄られているだけで腰の奥が疼いて仕方ない。
捩るスザクの下肢に気付いたジノは腹筋を撫で下ろしながら膨れている股間を優しく擦った。

「あっ、やっ……ジノッ」

形を辿るようにズボンの方から触れていると、また少し大きくなって硬くなっていくのが愛おしくてジノは微笑む。触ってほしくて仕方ないからこんなにの熱くしているというのに本人は触るなと首を振る。
素直じゃないなぁ、とジノはスザクの乳首をぎゅっ、と摘んだ。

「んんっ、」

熱っぽい吐息を零して、潤んだエメラルドでジノを見上げる。苦悶に表情を強張らせジノに触れられた箇所から加熱する欲情がヒートアップしていくことに身体が震えた。

「ジノ、っあ」

強く股間を擦られるとスザクはシーツを手繰り寄せて唇を噛み締める。彼の指がズボンのチャックにも手を掛けて下ろしていくと、触れられる期待に身体の中に蛇を飼っているかのような気持ち悪い熱の塊に息が忙しくなり、苦しい。ジノの胸を押して、「待って」と囁いた。

「僕が、する」

ジノの腕に縋って上体を起こすと、彼の足の間に顔を埋めた。ズボンのチャックを下げて下着をずらせば、スザクと同じように興奮している雄が飛び出てくる。スザクの顔がよく見えるようこげ茶色の髪に指を通し、優しく撫でる。
大きなそれに躊躇いながらも先端からゆっくりと口に含んだ。

「ふっ、んー」

目を伏せれば睫毛が震え、肉茎に手を添える。ジノはその爛れた光景を恍惚して青い瞳で見つめていた。小さなスザクの唇が自分の熱を咥え、口を窄めて唾液と一緒に先端から染み出た体液を啜る。
単調にするだけではなく舌を使い丹念に付け根から先までじっくりと舐め上げて吸えば、ジノが少し苦しそうに眉を顰めた。

「ん、んんっ」

夢中になってしゃぶりついていれば、スザクの腰が揺れる。今、口腔にある熱が口の中に広がるだけではなく、下腹部へも伝わって屹立した雄から滴る雫がシーツへと落ちた。

「スザク」

痴戯に酔い痴れているスザクの顎から零れる唾液と精を拭う。
何度も口に含んでは吸い、舐めて施すスザクの卑猥な行為。ちらり、と上目で見上げればジノと目が合い、急に恥ずかしくなってまたその硬い茎にしゃぶりつく。
膨れる熱をそろそろ解放してみたくてジノは声を詰めて、「イクッ」と小さく呻くとスザクの後頭部をぐっと抑え彼の口腔の中で吐精した。

「んっ、んく……っ」

粘着質な体液が口の中へと急に流れ込んできてスザクは噎せそうになるが、それを堪えてジノの精を飲み下した。決して美味しい味ではないけれど、それがジノが気持ちよくて吐き出したものだと思うと嫌がることなく飲めてしまった。最後の一滴まで啜ると口を離し、ねばつく口腔の気持ち悪さに少し嗚咽しそうになる。眦にも涙が溜まっており、顔を上げると頬にそれが流れた。

「スザク、気持ちよかったよ」

そうスザクの行為を褒めると、彼は愉悦に蕩けた目を細めた。

「今度は私が気持ちしてあげる番だ」

するとジノがスザクの身体を起こし押し倒すと、身体中にキスをする。窪んだ鎖骨、芯を通した胸の突起、薄い付いた筋肉の肌と小さな臍。それから内股にも口付けて膝へ足の甲へもジノの唇が触れた。
ぞくぞくとそのくすぐったい口付けにスザクの熱は触れられてもいないのに蜜を垂れ流す。

「ジノ、ッあ、あん」

ジノの指が雄へと絡むと、神経に直接触れられているような甘い痛みが全身を満たしていき止らない性欲が形となって溢れ出す。瞳の中の碧色を揺らして涙に濁して、ジノを呼ぶ。
絡みついた指が先の割れ目を弄り抉るとスザクが悲鳴みたいな鳴き声を奏で、ジノへとしがみ付く。しかし彼の指はすぐにそこから離れてしまうと、後ろの窄みを濡れた指先で突き入り口を浅く押して刺激する。

「っ、ジノ、……や、あ」

強張ったその場所を解すために指を差し入れて蒸れたように湿った内壁を慎重に掻き分けて解していく。狭隘の中に埋められた指が肉襞を擦り拓いていくと、スザクが酷く感じる場所を見つめて執拗にして撫でてやるとぽろぽろと大きな瞳から雫を零して、哀願する。

「だめ、やだぁ……じのっ、そこ」

「うん?」

苦しそうに喘ぐスザクの鼻先を齧り、ジノは執拗にスザクが嫌がる箇所を押して刺激を与え続けてあともう少しジノが強く擦ってくれれば達することができるのにそうしてくれない意地悪に、スザクは滲んだ瞳で睨みつける。
その視線と蕩けた顔も可愛くて、ジノは口端を緩めた。

「スザク、すごく可愛い。可愛いから全部食べたい。スザクの全部、私に頂戴」

中を掻き回していた指を引き抜くと、膝裏を抱えて腰を持ち上げると熟したスザクの蕾へと陰茎を押し当てた。スザクはその滑る温かさに期待と恐怖に身体を震わせて目蓋をきつく閉じた。

「あっ、あぁ」

隘路をこじ開けて貫かれると感極まった嬌声が上がる。膝を折り曲げて肉のない腰を抱え、根元まで埋めてしまうとやっと息が吸うことが出来た。
ぴったりと接合した部分が蠢いていて、スザクは今にも意識が飛んでしまいそうだった。ゆっくりと、そして急に激しくジノが腰を前後に揺すると、呼吸が乱れる。

「あっ、あん、あぅ」

淫らな声が漏れ、スザクはジノの背中に腕を回して必死に縋る。自分の呼吸のジノからも零れる荒い呼吸が重なって空気が湿ってくる。
ジノの硬い茎がスザクの弾力のある内壁を擦り上げると火傷してしまったようにひりひりとした熱に支配され、眩暈がする。強弱を付けられた律動に翻弄されて、スザクはもう溢れる甘く切ない気持ちよさを喉が枯れるまで鳴いて溺れた。
もっと深くまで突いてと自らも理性を忘れて腰を振って求めて満たして欲しい。
擦られて膿んだ肉はジノの楔を締め付けるとジノも熱に浮かされた吐息を零す。繋がった場所からは淫猥な肉と肉がぶつかる音が何度も鼓膜を震わせて耳まで犯されている気分だった。

「あっ、ジノ……もぅぼくーっ」

スザクの震えている雄はジノの腹に擦れていて達する瞬間を待ちわびている。

「スザク、スザク」

耳朶を甘噛みされると、背筋を這い上がってくる痺れ。先端が鍛えられた腹筋で刺激され、内からは激しく一番感じる薄い肉襞を貫かれるとたまらずスザクはそのまま羞恥などに構っていられず射精してしまった。
白濁した体液が互いの腹に飛び散って、穢す。しかしスザクが達してもジノの律動は止まるどこか激しくなってベッドのスプリングが軋んだ。
スザクの肉に官能を擦り付けてジノは身体の中に奔流している熱情をスザクへと注ぐために、数度細い腰を引き寄せて穿った。

「っん、あうっ」

衝動に締め付けられて、ジノはようやく熱くなったスザクの粘膜へと精を勢いよく飛ばした。突如他人の熱情が自分の中へと流れ込んでくるとスザクは全身を痙攣させて全てを受け止める。
最後の一滴まで打ち付けてスザクへと吐き出すと、ジノは噛み締めてした唇を解いて長い息を吐く。

「あ、あつ……、う」

灼熱の塊が腹を満たし、スザクは惚ける。
ジノが自分の中にいることと彼の愛情が注がれたということに打ち震え、喜悦さえもした。呼吸を乱したまま、力強い腕で抱き締められて、スザクは溜息を吐く。

「……ジノ」

鳴きつかれた声で名前を呼べば、声が返ってくるのではなく埋められた肉が蠢いたのがわかってスザクは思わず正直な彼に笑ってしまった。

「まだ、足りない?」

たどたどしくそう聞けば、頬を両手で包まれる。
にっこりと熟れたエメラルドが見えしてきてジノは疼く底なしのような欲に頷いた。熱い息が頬にかかり、落ちてくる三本の三つ編みが首筋をくすぐる。

「ジノ、」

ジノの金髪へと指を入れて自分の胸へとジノを抱く。ふつふつと沸き起こる熱が収まらないのは自分も同じだ。まだまだジノが欲しい。
何もない自分だけれど、誰にも負けないものを持っている。
そう今だけでも、少しは自分も欲張りになってみてもいいかなと、スザクは思ってみた。

「生まれてきてよかったと、今、すごく思うよ」

貴族に生まれ何不自由なく暮らし、一貴族軍人からナイト・オブ・スリーにもなることが出来てその上スザクと出会えることが出来たこの人生に感謝したい。

「あっ」

落ち着いてきたと思えばふいに再開されるゆっくりとした律動に、スザクの表情がまた艶やかなものになる。スザクスザク、と何度も名前を囁けばスザクもジノの名前を呼応させた。
温かい繋がりの中に沈んでこのまま息が出来なくなるまで溺れてしまえたら。
そう、絡めた手を強く繋ぎ返してスザクは意識が途切れる中で想いながらジノの愛に応え続けた。




もう忘れないでおこう。


次の彼の誕生日はもっとちゃんと、誕生日らしいものを用意してロマンティックに。



ハッピーバースディ、僕の大事な人。









                                    


君のために僕は白い息を切らして走った