愛されたいと思いながらも、愛されることに恐れて。
だからどれも中途半端にしか思ってない。
いつでも自分から捨てられるように。
誰かに縋ってみたいのに、それを許せないのは他ならぬ枢木スザク自身で。

なんて滑稽なんだろうか、この少年はと哂った。

憎みなよ。
憎めばいいだろ。
誰が殺した。
誰がそうした。
誰が、君から奪ったのか、わかってる?

教えてあげるよ、枢木スザク。
君が知りたいこと全てを僕が教えてあげる。
だから僕にも教えて君の全部。
偽った優しさに守られているかぎり、君は本当に何もかも失って孤独になってしまうよ?

だからホラ、この手を取って、「欲しい」と言えばいい。



「君は、どうして僕を?」

「どうして?君があまりにも可哀相だったからだよ。理想の世界までも否定されて、大切な人まで失くしちゃって、なら人間は何に縋りつきたくなるのかな。最後に残るのは、何かな」

枢木スザクは、それを知っていながら白い絵の具で塗りつぶしてきた。
それを、僕は剥がしてやりたかったんだ。

「君はもう刻を捨てたね。父への贖罪も、愛しい君主の香りも」

7年間、肌身離さず持っていた懐中時計は数ヶ月前に動くのをやめて、今は愛しかった主の胸元に。
あの針が止まってから、今度は枢木スザクの時間が動き始めたのだ。

「もう君を縛るものはないんだよ、枢木スザク」

大切なお姫様も、大切にしてきた父への罪も、もう今は君の手にはない。

「なら次は、何のために生きてみる?」

死ぬために生きてきたものを、今度は何に捧げてみよう?

「誰も憎んでも怒らないよ」

枢木スザクは知らない。
ゼロだって憎しみで生きているのだ。
だから君はもっと憎悪というものを知らなきゃいけない。
己がそうなることで、やっと君は解放されるんだよ。
そうてして僕は彼の手に触れる。

「君の手は、温かいんだねV.V」

触れられた手から伝わる柔らかさに、にこやかに笑って握り返す。

「君にたった一つの言葉を上げるよ、枢木スザク」

今度はその温かな手の平で彼の冷たくなった頬を包み込む。
間近に迫った赤い眼。
少年は唇に緩やかな弧を描いた。



「僕が、君を愛してあげるよ」


ぼくだけが、そばにいてあげる。


たった一つの言葉