幼いながらに、守りたいものはたくさんあった。
あれもこれも、目に映るもの場所や人。
自分にはそれが出来る、と慢心していた。
俺が守らなきゃ、て思ったんだ。

美しい日本が、外から内からも崩れていくのが純粋に嫌だった。

そしてもっと知って欲しい、見て欲しい、ルルーシュとナナリーに。
知らないものを得て笑ってくれる彼らともっと仲良くなって、ずっと一緒にいたらいいなと。
それが、自分でも人に何か与えることが出来ることなのだと。
幼いながらに、守りたかったんだ。



父をこの手に掛けてしまったことを咎める大人はおらず、「隠せ」と必死になってまだ幼い子へと強要する。
忘れる、のではなくて隠せ、と。
隠せ。息子が父殺しなどこんなことを洩らせばこの国の腐敗は確実だ。
隠せ、隠せー。
スザクは父を殺してなどいない。
枢木ゲンブは自害したのだー。
自分が隠せば、この国は燃えなくて済む。自分と大人たちだけの秘密にすれば、この国はまだ美しいままで生きていける。
どうすることも出来なかった子供に選択肢はなく、スザクは望んで隠すことを受け入れた。それが知らず知らずに罪の枷になっているとも分からずに。
見て見ぬフリをした。
重すぎるその罪を、今受け止める勇気などなかったのだ。
そうして自分を正当化する。自分がそうしなければ、この国はなかった。今もなかった。
日本は名を失ったが壊れはしなかった。
父を殺して、それを隠した結果の望んだ代価だ。
だから、正しかったのだと。
けれど、それは己が守ったものではない。国も未来も、自分さえも守ったのはなくて守られてたのだ。
罪の子を晒すことなど大人たちは出来るわけがなかった。大人たちもまた、自分たちの身を守りたかっただけ。
敗戦国になることより、その支配下に置かれながらもまだ支配者でいたいという愚かさ。
その中で生きる生ほど無意味なものはないと、スザクは感じる。
きっとこのままでは自分さえも朽ちて行く。父の死をも穢して、最低な息子だ。
父を殺して手に入れた世界で何がしたい。何がしたかった。
もういない父にさえ、守られている気がした。

ルルーシュとナナリーは、枢木家にこれ以上居ることはなく「迷惑がかかるから」と、スザクにだけ別れを告げていた。
必要とされなかった皇子と皇女。
その二人にとって、この敗戦は何を意味し、何を目的に生きるのだろう。
復讐。それしか残っていないのかもしれない、ルルーシュには。
迷惑になんてならなかった。それでもルルーシュは「人身御供としてこの国に来たというのに、結局あの国は俺たちなんか本当にどうでもよかったんだ。死のうが生きていようが、どちらでも。そんな俺たちがお前の傍にいれば、お前はもっと嫌な目に遭うだろ」
そんなことを、彼はなんてことないように笑いながら言う。
「スザクに迷惑をかけるのはもう、嫌だから」と。
二人だけは僕が味方になって助けたかった。
遠い国から来た二人を、守っていたつもりが反対に彼らにさえも最後は守れずに守られてしまったのだ。
守りたいものすらも守れない。
守られてばかりで、自分の生を感じたことがない。
生きるとは何か死ぬとは何か。
本当のことを隠して、嘘を纏うことに意味があるというのなら、ここに居てはいけないと強く思う。

僕はここに居ちゃいけないんだ。

いつまでも囲われた人生を送り自分を見失っていく、嫌いになっていく。
どうして何のために隠してきたのか。
父を殺したことを償えと言えばいいのに。俺を、殺してくれたらよかったのに。
何故、守られているのか腹が立った。

俺はここに居ちゃいけない。

だから、枢木家本家を出て決断する。
自分に今できることは何なのか。
それになれば、自分の望みが叶うのではないと。
守られてばかりの生よりも、自己満足の死を受け入れたい。
「お前のためだ」と守られるのではなくて、僕は罰せられたいんだ。

「だから僕は行きます」
「家を、国を裏切ってまでか」
「僕はそう、思っていません」

大人たちは口々に反対する。出ていけばお前は壊れてしまう、と。父の死を隠し続けなければお前は救われない。
それは、否、だ。
ここに居ても救われはしない。
ずっと隠してきた真実に押し潰れる。
ここに居ちゃいけない。
そう。僕は命を懸けて償わなきゃいけない。

「僕は僕に出来ることを、やっていきたいからそのために、名誉ブリタニア人になることを決めたんです」

綺麗事だけを口にして、もっともなことを吐く。
僕に出来ることってなんだろう。出来ること、てなに?

内なる束縛から出ても、隠した罪犯した罪から逃れられない。
だがその代わりに罰を与えてくれる。
罪に罪を重ねるのはもうたくさんだ。
独りよがりでいい。誰に認めてもらわなくてもいい。
ただ言えるのは、


「この国を、父が守った国を、愛しているから」


そうしてスザクはにこりと柔らかく笑った。

僕は出ていく。この腐敗する世界からも。
偽善と歪んだ愛国心を持って。
Eternal restraint

++拍手ネタでした。++