さぁ跪いてお甞めよ
さぁ舞い踊れよ阿修羅のように
誰がためでもなく、私のためだけに




ゆったりとソファに腰を下ろして、足を組む。ワインレッドの瞳が心地よさそうに細くなる。艶かしく溜息を吐いて、己の前に見下ろすことが出来る鳶色の髪の前につま先を向ける。
少年は黒髪の少年に片膝を付いて身体を小さく屈ませてずっと下を向いている。
この部屋に、二人以外誰もいない。
ただ跪いた少年は、言葉を待つ。
翡翠色の瞳の赤いリングの絶対厳守を宿しながら。
「スザク、お前は俺を守らなければならない」
「イエス・ユア・ハイネス」
熱の篭った声とは対照的の単調の返答。
白の騎士はじっ、と俯いたまま新しい君主に誓いを立てる。
「お前を救ってやったのは誰だ?」
「ゼロ、貴方がいなければ僕はあのまま何の意味もなく、息絶えるところでした。俺が俺であるためにはあそこで死ねなかった。それを決めてくれたのが、君だ」
それは不思議なほどどこか晴れやかで、迷いはなかった。
誰があの枢木スザクがゼロであるルルーシュに跪くことを想像できただろうか。誰も出来まい、己を除いては。ようやく、手に入れたのだ。愛しい愛しい、スザクをこの片目の王の力で。
「スザク、お前の命は誰のものだ」
「ゼロのために」
「スザク、お前の名誉は誰のために使う」
「全て君のために」
にやり、と唇が弧を描く。
つま先をスザクの顎へと掛けて、顔を上げさせる。まっすぐに、その瞳が自分を射抜いてくることには変わり無い。ただ少しの違和感と罪悪感を拭いきれなくても、結果はこうして出ているのだ。
何も文句はない。後悔はない。
全てはスザクのためを思ってだ。
ルルーシュは冷たい空気を吸い込んで、力強く、スザクに命じる。
「その通りだ。お前の命も尊厳も、全て俺のために駆使しろ。お前は私に従ってここに居ればよい。お前は黒の騎士団の仲間であり、俺の盾でもあり矛なのだから」
美しい俺の獣。
その牙は歯向かう者全てを食い散らかしてくれるだろう。
スザクは真摯なまなざしを崩すことなく、左胸に拳を当てて唇を開く。
「イエス・ユア・ハイネス。ゼロ、僕は貴方を守り抜くことを誓います」
紅いリングがまた一層に、強く光った気がした。
「それでいい。スザク、お前は俺のものだ。俺だけに従っていれば何も、もう苦しむことはない。だからスザク、」
苦しみから救ってあげられるのは、もう俺だけなのだよ。
「俺から離れることは許さない」
そしてもう一度、立てられた誓約にスザクは嘘も真実もない。愛も誠も捧げ、守り抜こう。それだけが事実として残り、スザクは囚われ続ける。
紡がれる、約束。決して破られることはない、絶対的な。
「イエス・ユア・ハイネス」


嗚呼。それはなんという極上の言葉で、残酷な誓いなんだろう。