「スーザク」

後ろから逞しい腕がにょき、と生えてくるとそのまま有無を言わせず抱き寄せられた。
ラウンズ専用のリフレッシュルームへと足を運んでみれば先客が自分の姿を見つけ、ぱっと顔を明るくしたと思えばコレだ。
今更ではあるが白昼堂々とくっついてくるこの男に飽きれても嫌がるのも大して効果にはならない。

「何か用?ジノ」

つんとした声色だが困った素振りも見せず、ジノの好きなようにさせながら聞く。
最初は絡まれることに困惑したが今では日常の中のワンシーン。慣れとは怖い、というものか。

「別に。用がなきゃスザクと一緒にいれないのか?」

頭の上から笑みを含んだ言葉が降ってくる。
二本の腕にすっぽりと収まってしまうスザクの華奢な肩。背中に伝わる胸の厚さ。
そう言ったつもりはないのだが、必要以上なスキンシップを振舞われると一歩線を反射的に引いてしまいたくなる。
触れられる、という前置きがないまま突然の触れ合いには慣れていなかった。
いつだって、わかっていた。今、彼が触れたいと思っているのか、触れて欲しいと思っているのか。そんな自分の気持ちや仕方など構うことなく、ジノは自分がしたいようにする。
それが彼の触れ方、なんだろう。
ふわっ、と跳ねるスザクのココア色の髪に頬をすり寄せて、唇が触れた。

「僕はいつでも君といる気がするけど」

むしろ君がいつも僕のところにいる、と言っても過言ではない。

「だってスザクの傍は居心地がいい」

ぎゅ、と抱き締められた腕の力が微かにこもる。
その腕をスザクはそっと触れて、眉を顰めた。
他人が自分を居場所と感じてくれることは、重く切なく、とても心苦しいものだ。
自分の居場所を見つけるだけでせいいっぱい。

「スザクだって、こうされると安心出来るだろ?俺って包容力あるから」

「自分で言ってしまったら意味がないだろ、そんなの」

抱かれた腕を叩いて、離してと促すとジノは仕方なくスザクを手放してやった。
振り返ったスザクの翡翠色が淡く滲んでジノを見上げる。
見返すジノの瞳の色はいつだって綺麗で濁り無く、スザクへと向けられている。
そんな綺麗な色を向けないでくれ、と覆いたくなった。
スザクは半開きになった唇を結ぶと目を伏せた。

「言わないとスザクには伝わらないだろ?だから言う、お前にはちゃーんと俺を見ていて欲しいからな」

白い歯を見せて屈託無く笑うジノにスザクは肩を竦めた。大胆とも言える告白は、いつだって特別でいつでもどこでももたらされる。
言わないと伝わらない。
言えなかったから、途絶えてしまった絆。
たぶん、ジノの言う通り言われなければ自分は分からないのだろう。
彼はとても優しく無邪気に、僕の中を抉り出来た傷跡に薬を塗って絆創膏を貼る。だんだんと癒えゆく傷に、スザクも応えていく。

「ちゃんと見てるよ、君を」

そうさせられる。
振り向かされる。
僕はきっと、その強引さが欲しかったんだろうな。