「スザク、明日の夜空いているか?」



「明日?」


午後の授業も終わり、生徒たちが教室を後にしていく中ルルーシュはまだ席に座って帰る支度をしているスザクへと声を掛けた。
なんだろうと見上げれば、柔らかい笑みを作っているルルーシュがいる。

「明日、クラブハウスで小さなパーティーをやることになったんだ。お前の生徒会歓迎会だ」

お祭り事が好きな生徒会(というより生徒会長)が、まだスザクの歓迎会をしていないと言い出して急遽明日の夜に、ルルーシュたちが住んでいるクラブハウス1階ホールで歓迎会をしようという話になったのだ。
スザクはきょとんと目を丸めて、首を傾げて明日の予定を頭の中で確かめて苦笑いを浮かべる。

「明日の夜は難しいかもしない」

「どうしてもなのか?」

「うん、気持ちは嬉しいんだけど僕は軍人だからどうしても優先事項が決まっちゃうんだ。それに歓迎会だなんて、そんな大袈裟にしてくれなくても僕は生徒会に入れてもらえただけで嬉しいんだから」

本当にごめん、とスザクは告げた。
しかしルルーシュは今回だけは簡単に引き下がりたくなかった。どうしても、明日の夜は一緒に過ごしたい。
いつも軍の仕事があるからと断られ、今回もまたそんな理由だと思うと腹が立つ。

「スザク、」

かばんを手に取って立ち上がる彼の腕を掴んで引き止めればスザクが振り返る。
ルルーシュの切羽詰ったような、今じゃなくてはだめなような真摯な瞳。

「どうしてもなんだ。その、お前が忙しいことは分かってる。だが明日じゃなきゃだめなんだ。少しでもいい、だから顔を出せ」

「ルルーシュ……」

どうしてそんなにも固執するのかと、スザクは困ったように笑う。
ルルーシュがそこまで言うことも珍しい気がして、「今日、聞いてみるよ。行けたらちゃんと行く」と、答えた。
スザクが教室を出ていくのを見つめながらルルーシュは腕を組み、不安明らかにドスンと彼が座っていた席へと腰を下ろす。
どうして自分がここまで必死になっているのか分かっていない素振りのスザクにも軍にも、苛々する。
そういうルルーシュも明日が何の日だったのかを思い出したのは昨日のスザクのいない生徒会室でのことだったが。
ミレイがこれも生徒会としての義務、と言って最初に提出しなければならないプロフィール。そのメンバーに新しく登録されたスザクの詳細を見ていて歓迎会と表したものを急遽旗揚げしたのだ。

(あいつ、明日が何の日なのかわかってないのか?……まさかな、自分の誕生日ぐらい覚えているだろ)











「枢木スザク、ただいま戻りました」


軍の寄宿舎はアッシュフォード学園からすぐ近くにある。そのため、スザクが所属している通称特派と呼ばれる一風変わった部署も、最近ではそこに留まることが多かった。
学校が終わり、そこに帰還すればスザクは軍人へと姿を変える。

「おかえりなさい、スザクくん。今日も学校は楽しかったかしら?」

帰ってすぐに特派のトレーラーへと向かうとセシルがランスロットの調整をしている最中だった。パソコンに映し出されている図面と数字。
それを深く読み解くことは技術者ではないスザクには分からなかった。

「ええ、まぁ。楽しい、というか勉強をするところなので学校は」

「そうだけどお友達とかと、ね」

にっこり笑っている彼女の優しさには救われている部分が多いが、妙に世話好きで時々スザクも思わず困惑してしまう言葉や行動もあったりする。
彼女はスザクのことを特派としての一員、パイロットとしてみているのではなくもっと別の角度からスザクのことを捉えているような視線をした。
スザクはそこに鎮座している白い巨体を見上げる。
そしてすぐに今日のルルーシュのことを思い出す。
明日の午後はランスロットのデータテストがある予定があるため、行けないと断ったがそれでもルルーシュが告げる来て欲しい、という言葉。
行きたいのは山々だけど、やはり自分は軍人でその自分が私用を優先させることは、許されないことだと思っている。
ルルーシュだってそれを分かっていると思うのに、何度も尋ねてきた。

(僕って、ルルーシュに甘いのかな……)

聞くだけなら別に構わないだろう。
結果が見えてることが少し残念だがルルーシュには「聞いてみる」と、言ったのだから。
セシルさん、と顔を上げて彼女に明日の予定変更とか出来ますか?と問おうとして唇が開くがその前にセシルの方が「スザクくん」と声を掛けた。

「は、はい」

「明日のことなんだけど、ランスロットの稼働テストは週末に変更にしておいたわ」

「え?」

思いも寄らなかった言葉にスザクは驚いた声を上げる。
自分が聞く前にその話になったということと、何故予定を変更したのかその理由が検討も付かなかった。
大きなことがない限りテスト変更はなかったというのに。

「どうしてですか?」

そう聞かれて困惑したのはセシルも同じだったが、すぐに微笑む。

「どうしてって、明日が貴方にとってどんな日なのか分かってる?スザクくん」

また明日、という言葉。
歓迎会なんて明日でなくても、別の日に変更出来るだろうにルルーシュは明日に拘った。
そして彼女も「明日」が特別な日であるような言い方。
明日。明日の日付は。
そこまできて、ようやくスザクははっとする。

「7月10日。僕の、誕生日です」

本人からその台詞が聞けて満足そうにセシルは頷く。

「私もちゃんと君のことは知っているつもりよ」

誕生日という日を忘れた、ということはなかったが祝ったことはここ数年ではなかった。
いつも過ぎた後から思い出す。
また一つ年を重ねたという事実だけが、残る。
しかし何故、だからと言って予定を変更する理由はここにはない。

「しかし、そんな理由で変更は……」

「私がそうしたかったの。せっかくの誕生日なんだから、恋人とかと過ごさなきゃ、ね?軍人だからこそこういう日を大切にしなさい、スザクくん」

席を立ったセシルがスザクを覗き込んで優しく笑う。
思慕に似たような見守る視線で。

「それにもう変更しちゃったの。だから明日のスザクくんは一日好きに過ごしてていいのよ。そうね、これは私とロイドさんからのプレゼント、ということでよいかしら」

複雑な心境ではあるが彼女が自分を思ってしてくれたことなのだ。
それを足蹴にすることなんてスザクには出来なかった。
素直に喜んでおくべきだと。
これでルルーシュたちに誘われた歓迎会にも行ける。と、嬉しさに満ちると同時また一つ、謎が解けた。
ルルーシュがどうして明日に拘ったのか。
誕生日だからなんだ。
それに気付こうとせずに、「軍務が優先だから」とルルーシュの気持ちを折ってしまった自分が、情けない。
明日はちゃんとルルーシュに謝ろう。

「ありがとうございます、セシルさん」

精一杯の感謝を込めて、スザクは感謝を言葉にした。
そうしてふいに、スザクは数秒前の話を戻す。


「ところでセシルさん」

「何かしら?」

「僕に恋人がいる、てどうしてそう思うんですか?」

その問いに、セシルは純粋な笑顔でこう答えた。

「あら、それは女のカン、てやつかしら?」






                                    

 



君に恋する為に生まれた魂 T